コロナ後遺症
新型コロナウイルスに感染後、後遺症に悩む人は、2022年の
報告で既に6500万人を超えています。
後遺症の症状には・倦怠感・ブレインフォグ(思考力の低下・
記憶障害)・頭痛・不眠・息苦しさ・体の痛み・咳・動悸・
食欲不振・発熱・味覚障害などがあります。
迷走神経の損傷
生活の質を著しく損なうことに繋がるこれらの症状の多くに
ついて、新たな研究結果で指摘されているのは「迷走神経の
損傷」に関連があるということです。
迷走神経とは12対ある脳神経の1つで、延髄から出ています。
首から胸部・腹部の内臓、例えば心臓・肺・肝臓・膵臓・胃
・小腸・大腸など人体に広く分布しています。
さらに、迷走神経は、安静時やリラックスした時に働く副交感
神経の働きもしています。
例えば、迷走神経が優位になると、心拍数が減少したり、お腹が
すいたりします。
医学的に言うと胃液分泌が促進されたり、胃や腸の蠕動運動が促進します。
したがって、この迷走神経が損傷を受ければ、副交感神経の働きが
失われ、交感神経が優位に働くことになります。交感神経は、緊張時や
ストレスがあるときに働く自律神経の1つです。そのため、心拍数が
促進したり(いわゆる動悸)、食欲不振に陥ります。
スペインの感染症の研究結果
スペインの感染症の専門医による研究結果によると、コロナ感染時の
症状が軽度から中程度で、後遺症のある300人のうち、迷走神経の
損傷に関連がある1つ以上の症状を訴える人は2/3以上にのぼって
いました。
感染していない人や感染後完全に回復した人に比べ、後遺症がある人に
多くみられたのは「長引く咳・心拍数の増加・発声障害・嚥下障害・
食欲不振・認知障害・めまい」といった症状です。研究チームは、
エコーの分析を行い、迷走神経そのものについても詳しく調べました。
その結果、後遺症がある人の20%には、首から胸部に伸びる迷走神経の
全体に著しい肥厚が見られました。
神経の肥厚は多くの場合、炎症に起因するものです。
迷走神経の構造変化
研究者たちは、迷走神経に著しい構造的な変化が起きて
いることの原因には、ウイルス感染という直接的なものと、
免疫の活性化という間接的なものがあると推測しています。
また、後遺症のある人の47%に横隔膜の平坦化が見られました。
横隔膜は肺の下にあり、呼吸金の1つで、通常はドーム状に
盛り上がり、収縮・弛緩を繰り返し、呼吸のコントロールを
しています。
この筋肉の平坦化は、胸腔内の大幅な圧力の低下を招き、息切れや
めまいの症状の原因になっていると考えられます。
後遺症の治療
一方、意外な事にエコーから判断すると、肺のその他の部分は正常な
状態にあることが分かったといいます。これは、後遺症としての呼吸器
症状は「肺が受けた直接的な損傷によるものではない」ことを示唆して
います。
つまり迷走神経が損傷を受けたことによって、横隔膜への信号伝達が
阻害され、そのため、横隔膜の収縮と弛緩が充分に行われなくなっていると
考えられています。
多くの臓器は迷走神経に依存しているため、迷走神経が受ける損傷は
体内の重要なシステムに影響を及ぼす可能性があります。
この研究結果が示唆するのは、後遺症の治療において標的とすべきものは
迷走神経だということになります。